肺がん・がん治療

喫煙との因果関係が大きい肺がん

  肺がんの治療  

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肺がんとはどのようながんか

   
国内でかつてはがんの死亡者のトップは胃がんでした。ところが1998年に肺がんがトップとなりその後も増加傾向にあります。

2007年の統計では約6万5千人の人が肺がんで亡くなっています。肺がんの原因はまだ十分には解明されていませんが,喫煙の影響が最も大きく,その他,排気ガス(特にディーゼル車),アスベストなどが原因と言われています。
 

アスベストは,肺に吸入されてから発がんするまで数十年かかると言われており,アスベストが原因と見られる肺がん患者も近年増加しています。 また肺がんの5年生存率は25~30%といわれています。

この数値は,胃や大腸などの消化器系のがんの5年生存率が60~70%に対し,かなり低い数値です。

肺がんの患者数は40歳代後半ごろから増加しはじめ,高齢になるほど,罹患率や死亡率も高くなっています。

現在,70歳代の患者が激増し,10年ほど前と比べると約3倍となっており,今後さらに増加すると考えられます。

肺がんは,進行の早いがんでもあり,早期発見・早期治療がとても大切です。

 肺がんの発生部位と特徴
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喫煙と肺がんの関係
   

喫煙は肺がんの最も大きな要因です。がん全体の約30%,肺がんの90%近くは喫煙が原因と考えられています。

喫煙者の肺がんによる死亡のリスクは非喫煙者の4倍以上といわれています。1日に吸うたばこの本数×喫煙年数のことを喫煙指数(ブリンクマン指数)といいますが,これが600以上の指数の人は高肺がんリスク群とみなされています。

また,喫煙年数が長い人,1日の喫煙本数が多い人,喫煙開始年齢が若い人ほど肺がんのリスクが高くなることが明らかになっています。

また,肺がん以外でも,喉頭がん,咽頭がん,口腔がん,食道がんなどは喫煙が原因で発生するリスクが高いがんです。
 
喫煙者の肺がん患者の肺がん細胞には遺伝子変異が非喫煙者の肺がんよりも多く見られ,より悪性度が高いことで知られています。

たばこを吸っている人は,肺の機能が低下し,肺気腫,さらには心臓病などを併発していることも多く,より治療が困難なケースが多いのです。

肺がん予防の見地からは禁煙が最も有効と考えられます。高年齢になってからの禁煙でも確実に効果はあり,5年間の禁煙でも,肺がんのリスクは非喫煙者の2分の1に,10年間の禁煙では同等にまで減少します。
 


 
肺がんの自覚症状
   
  
肺がん特有の症状はないと言ってよく,咳や痰,血痰など風邪様の症状からみつかることが多くあります。肺がんはがんの発生部位によって大きく2つに分類され,それぞれ自覚症状が異なります。

肺の入り口の太い気管支にできるがんは「肺門型」と呼ばれ,早い時期から症状が出てきますが,肺の奥にできるがんは「肺野型」と呼ばれ,早期の段階ではほとんど自覚症状がありません。

「肺門型」の症状としては,血痰,止まらない咳,胸痛,息切れ,声のかれ,疲労や食欲不振,体重減少などがみられます。

これに対し「肺野型」は自覚症状があらわれにくいのですが,がんが進行してがん性胸膜炎をおこし胸水がたまったりすると,呼吸困難,さらにはがん細胞が胸壁を破壊し,骨にまで転移すると胸痛や背中の痛みがみられます。


 
 
肺がんの検査と診断か
   

肺がんの場合,がん特有の症状が出てから発見されると無症状の時よりも予後が悪い傾向があり,定期検診や人間ドックなどで早期に発見することが大切です。

肺がんのエックス線による検診は,国内ではやや有効という程度に考えられていますが,エックス線と喀痰細胞診を併用したり,CT検査を行うことでより多くの肺がんを発見できるようになりました。

肺がんでは痰の中にがん細胞が排出されることも多いため,この喀痰細胞診で痰に混じった細胞を顕微鏡で調べることで,肺がん診断に役立てることができます。



肺がんの診断
 
肺がんの確定診断には,顕微鏡でがん細胞を確認する必要があります。そこで胸部エックス線検査や喀痰などの1次検査で異常が見られた場合,がんと疑われる部位を採取し,顕微鏡で診断します。

気管支鏡検査
気管支鏡とは肺を検査する内視鏡で,胃カメラより細いものですが,同様の機能があります。肺の内部を観察し,病変を採取する機能があります。

病巣が気管支鏡で見えない肺の末梢にある場合は,テレビモニターを見ながら気管支鏡の鉗子口から入れた生検鉗子(せいけんかんし)で病巣を確認して病変の組織を採取します。また,ブラシで病変部位の表面をこすりとる擦過細胞診も行います。

肺針生検(はいしせいけん)
病巣が末梢にあり,気管支鏡が届かない場合や気管支鏡検査で採取した検体から診断が十分にできなかった場合におこないます。

体の外から肺に直接針を刺し,病変部の細胞を採取して診断します。この検査では肺から空気が漏れて肺がしぼんでしまう気胸という合併症を起こす可能性が10%ほどあるため,短期入院での検査が必要となります。

胸部CT検査
CT検査は肺がんの診断,病期の判定にきわめて有効な検査です。CT検査ではエックス線写真で異常と診断された影が肺がんかどうかは90%以上診断可能といわれています。
 
ただ,リンパ節への転移の診断はCT検査だけでは難しいため,縦隔に内視鏡を入れたり,超音波気管支鏡を入れたりしての生検が治療方針を決定する際に行われることもあります。

腫瘍マーカー
体内に腫瘍ができると,健康な時にはほとんど見られない特殊なタンパクや酵素が,その腫瘍により大量に作られ,血液中に放出されます。これを「腫瘍マーカー」と呼んでいます。

腫瘍マーカーは血液検査で行えるため,簡便ですが,陽性と出ても肺がんでない場合もありますし,陽性でなくとも肺がんの場合もあり,肺がんの腫瘍マーカーは診断の補助と考えるべきです。

腫瘍マーカーには肺がん全体に対してはCEA,扁平上皮がんにはSCCとCYFRA21-1が,小細胞がんにはNSEとProGRPが,非小細胞がんにはSCC,CIFRA,CA-19-19が,腺がんにはSLXが調べられます。 

 
肺がんの病気(ステージ)
   

肺がんのステージは大きく分けてI,II,III,IVの4段階に分けられます。
 
ステージI 肺内に癌が限局しておりリンパ節に転移がないこと。
ステージII 肺内に癌が限局し肺内のリンパ節にのみ転移があるか,リンパ節に転移はないが癌が直接肺外の切除できる周囲に拡がっていること。
ステージIII 他の臓器に転移はしていないが,ステージIIより進んだ状態。
ステージIV 他の臓器に転移している場合。         
 

上記の肺がんのステージは大まかな分類ですが,腫瘍の大きさや状態も考慮し,
さらにリンパ節や遠隔転移の有無を組み合わせて分類すると下記のようになります。(TNM分類)

  腫瘍の径  リンパ節転移有無  遠隔転移有無  
 
T因子 
腫瘍の大きさと状態のレベルを示す
 
N因子 
リンパ節転移の有無を示す 
 
M因子 
 遠隔転移の有無を示す 
 
 
ステージI
 T1
 N0
 M0
ステージI 
 T2
 N0
 M0
ステージIIA  
 T1
 N1
 M0 
ステージIIB
T2 
T3
N1 
N0 
M0
M0 
ステージIII 
 T1
 T2
 T3
  N2
  N2
 N1,N2
M0
M0 
M0 
ステージIII 
Tは無関係
    T4
N2 
Nは無関係 
M0
M0 
ステージIV 
Tは無関係
 Nは無関係 
 M1

T因子  腫瘍の大きさと状態のレベルを示す。
 T1: 腫瘍の最大径が3cm以下で,肺の表面に露出せず,それぞれの肺葉への葉気管支よりも奥に存在する。 
   
 T2: 以下のいずれかであること 
  腫瘍径が最大で3cmを超える。 
  肺の表面にがんが露出している。 
  腫瘍で空気の通り道がふさがれ,奥の肺に空気がない(無気肺)か肺炎が起きている(閉塞性肺炎)。ただしそのような症状が片側の肺にはおよんでいない。 
  左右の気管支に分かれる部分(気管分岐部)より奥で,主気管支に腫瘍が及んでいるが,気管分岐部からは2cm以上離れている。 
   
 T3: 以下のいずれかであること 
  腫瘍が肺を覆う胸膜を破って,周囲の臓器に浸潤している。ただし,T4の場合を除く。 
  腫瘍が気管分岐部から2cm未満にまで及んでいる。 
  無気肺か閉塞性肺炎が片側の肺の全体に及んでいる。 
   
 T4: 以下のいずれかであること 
   肺の周囲にたまった水にがん細胞が認められる。(悪性胸水) 
   原発巣と同じ肺葉の中に転移がある。 
  気管支分岐部ががんに侵されている。
  腫瘍が心臓,心臓の近くの太い血管,気管,食道,背骨に食い込んでいる。 
   
N因子  リンパ節転移の有無を示す 
N0: リンパ節に転移がない。 
N1: 原発巣と同じ側の肺の気管支の周囲や肺門部のリンパ節に転移している。 
 N2: 原発巣と同じ側の縦隔リンパ節や,気管分岐部リンパ節に転移がある。 
 N3: 原発巣と反対側の縦隔リンパ節,または肺門リンパ節に転移があるか,同じ側の鎖骨上の
窩リンパ節(首のつけ根周り)に転移がある状態。
   
M因子   遠隔転移の有無を示す
 M0: 遠隔転移がなく,原発巣とは別の肺葉にも転移がない。 
 M1: 遠隔転移があるか,または原発巣とは別の肺葉に転移がある。 



 
 

肺がんの治療方針

 
様々な検査を経て,肺がんの診断が確定すると,次はどのような治療を行うのがよいか,決定します。肺がんの治療には大きく分けて,手術,放射線治療,抗がん剤治療の3つがあります。

肺がん治療では原則として,組織型(がんの種類),病期(進行度),患者の身体的状態(体力)の3つの要素から,治療方針を決定します。


組織型
 
肺がんは他のがんに比べて,多様な組織型が存在し,それぞれ治療方針も異なります。特に小細胞肺がんと非小細胞肺がん(腺がん,扁平上皮がん,大細胞がん)とでは有効な治療法が異なりますので,顕微鏡による組織型の診断はとても重要になります。


病期(ステージ)
 
肺がんの治療方針を決定する上で,肺がんがどこまで進行し,どの範囲まで広がっているのかも重要な要素となります。

一般に小細胞肺がんの場合Ⅱ期以上は手術の対象とはならず,抗がん剤治療が中心となります。また,非小細胞肺がんの場合は通常Ⅱ期までが手術の適応で,ⅢB期,Ⅳ期は手術の対象外です。

非小細胞肺がんの場合,治療法の選択が難しいのがⅢA期です。というのは,手術を行うか行わないか,抗がん剤や放射線治療をどのように併用するかで確実な治療法が確立されていないからです。


患者の身体的状態 
 
上記の組織型や病期から治療の方向性が決まっても,患者の身体的状態がそれらに耐えられるかどうかを判断しなければなりません。

そこで,糖尿病や虚血性心疾患,肝機能障害,慢性肺気腫や慢性閉塞性肺疾患など持病がないかなども治療方針の決定の重要な要素です。

治療後の重篤な合併症や死亡は最低限に抑える必要があり,それだけでなく,どのような治療法を選択する上においてもQOL(生活の質)をできるだけ下げないよう配慮する必要があります。

治療の影響で肝機能や腎臓機能が低下し,体力の低下などが見られるようでは治療が成功したとは言えないからです。


治療方針で重要なインフォームドコンセント
 
肺がんの治療はどの組織型,どの病期であっても完治は困難なことが多く,治療にも複数の選択肢があります。

患者の立ち場としては,担当医師が推奨する治療法をよく理解した上で,納得して実行する(インフォームドコンセント)がとても重要で,特に治療に伴う苦痛や治療後のQOL低下の可能性はよく確認しておきたいものです。 

 

 
 

肺がんの種類

 

肺がんは,顕微鏡で見えるがん細胞の大きさにより小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2つの型に大きく分類されます。

非小細胞肺がんは,さらに腺がん,扁平上皮がん,大細胞がん,などの組織型に分類されます。
  
  
 小細胞肺がん
 
 

小細胞肺がんとは

 
  
顕微鏡でみると小型のがん細胞であるため小細胞肺がんと呼ばれます。肺がん全体のなか占める割合は10%強と少なく,喫煙者に多く発生します。

肺の入り口に近い太い気管支から発生することが多く,
肺がんのなかでもっとも進行が速いがんです。発見された時には,肺門やリンパ節転移を起こしているケースが多く,早い時期から他の臓器への転移が見られ,悪性度が高いと言われています。

抗がん剤や放射線治療は良く効くという特徴もあますが,肺がんの中ではもっとも予後の悪いがんです。



小細胞肺がんの症状
 
初期の症状としては,せき,たん,血痰,発熱,胸痛,背部痛,呼吸困難などです。さらに進行すると体重減少や,リンパ節の腫れ,上半身の浮腫(むくみ)などが見られます。


小細胞肺がんはときとしてがん細胞自体が副腎皮質刺激ホルモンや高利尿ホルモンなどのホルモンをつくりだすことがあります。その結果前者の場合では顔が満月のように丸くなることがあり,後者の場合ではけいれんや意識障害などの症状が見られることがあります。


小細胞がんの治療
 
小細胞がんは「限局型(片方の肺と近くのリンパ節にがんがある場合)」と「進展型(がんが肺の外に拡がり転移が身体の他の臓器にも見つかる場合)」に大別されますが,小細胞がんは化学療法の治療効果が大きいがんであり,抗がん剤使用が治療の中心となります。

小細胞がんは発見された時点ですでに他へ転移しているケースが多いため手術は困難な場合が多く,外科療法は遠隔転移が見られないⅠ期の患者のみ適用されていますが,術後には再発予防のため抗がん剤を使用します。


手術療法
 
小細胞肺がんの場合,どのような病期であっても,基本的には化学療法が中心となります。手術が適応になるのはTNM分類でT1・N0・M0(腫瘍径3cm以下,リンパ節転移なし,遠隔転移なし)のステージⅠA期のみになります。

小細胞がんは転移が早く,早期に発見されたとしても,転移が認められるケースが多いという特徴があり,たとえⅠ期であってもリンパ節へ転移していたというケースもしばしばあります。

以上の理由から手術が適応となるのはⅠA期と限定され,さらには術後の抗がん剤治療が必要になります。 



 限局型小細胞肺がんの治療
 
小細胞肺がんは非小細胞肺がんに比べ,悪性度の高い腫瘍ではありますが,抗がん剤や放射線に対する感受性が高く,
限局型の小細胞がんには放射線療法と抗がん剤が併用されます。

かつて,放射線治療と抗がん剤治療は同時に行うのがよいか,別々に行うのがよいかという議論がなされた時期もありましたが,現在は同時に行ったほうが効果的であるという結論が臨床試験により出ています。
 
使用される抗がん剤は,シスプラチンとエトポシドで,これらを使用した併用化学療法は,通常4回繰り返し行われ,治療期間は3~4ヶ月程度です。

この限局型小細胞肺がんに対する併用化学療法と放射線治療の組み合わせによる効果は高く,80%~90%の有効率です。

しかし,治癒は難しく,多くの場合,がんが大きくなり転移を起こし,5年生存率は10%~20%です。
それでも,20年以上前には小細胞がんが治癒することはなかったので大きな進歩と言えます。
 

進展型小細胞肺がんの治療
 
進展型小細胞がんには抗がん剤治療が行われます。現在は前述したシスプラチンとエトポシド,またはシスプラチンとイリノテカンという抗がん剤の併用化学療法が使用され,通常3~4回繰り返し,治療期間は3~4ヶ月程度です。

進展型小細胞肺がんに対するこの抗がん剤治療の有効率は60~80%程度ですが,長期生存,治癒はほとんど期待できず,1年以上生存する人は50%程度です。

近年,小細胞肺がんに対する新しい抗がん剤として,アムルビシンが登場しています。現在シスプラチンやイリノテカンと同等かそれ以上の効果が確認されています。
 
 
非小細胞肺がん 
腺がんとは
 
肺の分泌腺としての性格を持つ細胞,すなわち腺にできるがんで,肺がん全体の55%を占め,肺がんの中で一番多いがんです。近年このがんの増加が著しく問題となっています。扁平上皮がんや小細胞がんほど喫煙との関連性は強くないとしてもやはり喫煙者に多く見られます。

このがんの大半は肺の気管支の末梢部(肺野部)に生じます。比較的小さな状態からリンパ節に転移しやすく,小さいうちは症状がないことが多く,症状を起こすほどの大きさに達したときはすでに遠隔転移を起こしている場合が少なくありません。

また,末梢発生のがんのため,肺を包んでいる胸膜に近い場所に発生しやすく,比較的小さなころから胸膜まで浸潤し,がん性胸膜炎という手術では治療が困難な状態になりやすいことも特徴です。


腺がんの症状
 
多くが肺野部にできる腺がんは,肺門部にできやすい小細胞がんや扁平上皮がんに比べて自覚症状が出にくいという特徴がありますが,がんの進行とともにがん性胸膜炎になったり,骨に転移したときに,胸痛や背部痛がみられます。



扁平上皮がんとは
 
喫煙との関係が深いがんと考えられ,男性が発症しやすいがんです。肺がん全体の25%を占めます。肺の扁平上皮がんとは気管支の内側の細胞に生ずるがんのことです。多くは小細胞がんと同じく,肺門部に近い気管支に発生しますが,肺の末梢部に発生することもあります。

このがんは気管支の出血や潰瘍を起こしやすいという特徴がありますが,発生したその場所で広がることが多く,転移も他の型よりも遅いため,根治手術が可能ながんであり,放射線治療も有効です

扁平上皮がんの症状
 
このがんは太い気管支に腫瘤状に発生することが多いため,比較的早期から気道閉塞症状が現れることが多く,自覚症状として多いものはせき,たん,血痰,息切れ,喘鳴(ぜんめい),発熱,胸痛などです。




大細胞がんとは
 
気管支のもっとも細かい部分に生じるがんで小細胞がんに比べて,がん細胞が大型です。肺がん全体では5%と比較的少ないがんです。

肺の抹消に発生することが多いのですが,他の非小細胞がんより成長が速く,3ヶ月でがん細胞の数は約2倍になります。細胞の増殖が速く,抗がん剤や放射線療法が効きにくいがんです。


大細胞がんの症状
 
大細胞がんは、腺がんと同様に肺野部(末梢)にできるので初期では自覚症状がないことが多く,進行するまでほとんど症状がでません。

進行すると,胸痛,呼吸困難などが見られ,がん性胸膜炎になると肺の外側に胸水がたまるなどのが症状がでます。




非小細胞がんの治療
 
非小細胞肺がんの治療に対する基本的で有効な治療法は,手術,放射線治療,抗がん剤の三大がん治療が中心ですが,これらの他に内視鏡を使う,レーザー治療も用いられます。

最近は,がんの部位,型,進行度に応じてこれらの治療法を組み合わせる集学的治療法が行われています。

非小細胞がんは遠隔臓器に転移していることが多く,手術が困難な状況も多いため,免疫療法も取り入れられるケースもあります。


手術療法
 
手術によるがん治療では病期Ⅰ期~Ⅱ期が手術の対象になります。

前述したようにⅢA期の手術適応は意見の分かれるところで,ⅢA期で縦隔リンパ節に転移のある場合の手術適応は見解が定まっていません。ⅢB期,Ⅳ期の場合は放射線治療,抗がん剤治療が中心となります。


肺がんの標準的手術
肺がんに対する標準的な手術としては,がんの発生した肺葉の切除と肺葉に関係のあるリンパ節の廓清が行われますが,発生部位や進行度により,片方の肺全摘出が行われる事もあります。

すなわち,肺葉切除,あるいは肺全摘と縦隔リンパ節郭清を行う手術を肺がんの標準手術といいます。
 
この手術も以前は肋骨を3本も折っていましたが,現在はほとんどの場合,肋骨を折ることなく行われ,開胸を行う際に切開する長さも縮小し,現在では12~15cm程度肩甲骨の下を切開する程度となっています。

リンパ節郭清
肺がんの標準手術ではリンパ節郭清は必ず行われます。がんがリンパ節へ転移している場合だけでなく,画像診断で見て転移していないと思われても実際には転移の可能性があるため行われます。

また,リンパ節郭清により,正確なステージがわかり,術後の抗がん剤治療方針が立てやすくなります。


肺がんの縮小手術

現在は肺がんに限らず,術後のQOLを維持するため,積極的に縮小手術が行われるようになりました。

一つのケースは高齢者あるいは呼吸機能が不良で標準手術のリスクが高いと判断された場合です。                                  (消極的縮小手術)

もう一つのケースはがんが小さく,縮小手術でも完全切除可能と判断された場合です。                                       (積極的縮小手術)

積極的縮小手術はがんの大きさがCT検査で2cm以下の淡い陰影を示すような場合に行われています。

しかし,まだこの縮小手術の歴史は浅く,確実にこのような小さな肺がんが治ることが証明され,保証されたわけではありません。

この縮小手術を行う場合,通常はリンパ節の郭清を行いません。縮小手術を行うのは,CT検査でリンパ節転移がないと考えられる肺がんの場合となります。


肺がんの合併切除
肺がんが周囲の臓器へ浸潤しているのみで,ほかの遠隔臓器への転移がなく,手術により完全にがんを切除できると判断した場合には周囲臓器の合併切除を行います。

合併切除の適応となる臓器は,壁側胸膜,胸壁,心膜,横隔膜などで,上大静脈,大動脈,左房や食道,椎体などは手術の対象となりません。

しかし,リンパ節転移がなく,完全に切除可能と考えられた場合,これらの臓器の合併切除を行うこともあります。


胸腔鏡手術
肺がんに対する胸腔鏡手術は10年ほど前から始まりましたが,どこでも行われる一般的な手術になったのはこの5年ぐらいのことです。

胸腔鏡手術とは肺がん患者の胸に小さな穴を開け,カメラが先端についた胸腔(きょうくう)鏡や、電気メスを入れて病巣を切り取る手術のことです。

胸腔鏡手術の最も大きなメリットは低侵襲であり,手術による傷が小さく痛みが少なく,術後の回復が早く,入院期間も短くてすみます。

かつては肺の部分切除に行われていた胸腔鏡手術が,技術の進歩により,肺葉切除にも行われるようになってきています。
 
現在では,標準手術としての肺葉切除と縦隔リンパ節の郭清にも胸腔鏡手術が行われています。ただし,胸腔鏡手術をどのような場合適用するかは施設や医師によって違うようです。


放射線療法
 
手術が困難な3期や4期の患者を対象に行われることが多く,4期では転移による痛みを和らげるため行う事も多くなっています。最近では化学療法と併用されることが多く,効果を上げています。
 
現在は放射線の体外照射の他に,プラスチックのチューブに放射性物質を入れ,がん病巣のある気管支に挿入する腔内照射も行われています。この方法により,がん病巣に集中して照射が可能になり,副作用を軽減することができます。

放射線治療は副作用もともないます。一時的な副作用としては,皮膚が赤くなったり,下痢をすることもありますが,懸念されるケースは治療後3ヶ月を過ぎてから生じる晩期障害とよばれるものです。

晩期障害による放射性肺臓炎などが見られると,やがて人体に寄生する真菌類が肺を食害して繊維だけを残す繊維化症という症状に発展し,肺の機能が低下するだけでなく,広範囲に発生すると命にかかわります。
  

最新放射線療法
 
近年ヘリカルCTの原理を応用して回転しながら患部のみ的確に照射することを可能にした最新型放射線治療装置トモセラピー(TomoTherapy)が登場しました。

ピンポイント照射だけでなく,一度に複数の病巣や複雑な病巣にも対応でき,正常細胞へのダメージも少ない画期的なものです。従来は難しいとされていた多発性肺がんなどの放射線治療も可能となりました。 

また,他にもノバリスやフォーカルユニットと呼ばれるピンポイント照射が可能な放射線治療機が登場し,手術が困難な場合でも成果を上げています。


抗がん剤治療
 
非小細胞肺がんは小細胞がんほど抗がん剤は効きません。したがって体力が低下している患者に投与しても,抗がん剤の効果よりも体力を喪失して寿命を縮めてしまうことも考えられます。

最近では,シスプラチンをベースにしたイリノテカンやドセタキセルなどとの併用化学療法が行われるようになって有効な結果が見られるようになりました。主にⅢ期やⅣ期の手術が困難な進行がんに対して適用されます。
  
抗がん剤は多くが正常細胞にダメージを与え,副作用を持ちます。その副作用とは,貧血,嘔吐,食欲不振,脱毛,黄疸,倦怠感,口内炎など様々です。さらに白血球を減少させ免疫力をも低下させます。


分子標的治療薬イレッサ
 
近年がんが持つ特異構造に働き,がん細胞のみ殺すという分子標的治療薬が開発されています。肺がん治療薬としてはイレッサ(ゲフィチニブ)が開発されました。

イレッサ(ゲフィチニブ)が開発された当初はイレッサはがん細胞に選択的にはたらき,正常細胞への影響は少なく,副作用もほとんどなく,従来の抗がん剤が効かない肺がん患者にも効果がある「夢の新薬」とマスコミに報道され話題となりました。

投与方法も経口で,1日に1錠飲めばよいという便利なもので,日本では承認申請から半年という短期間で世界にさきがけて承認され,すぐに保険適応にもなっています。

しかし,実際に投与してみると急性肺障害や間質性肺炎などの副作用が一部の患者に見られ,それによる死者(副作用での死亡率は0.6%)も相次いで報告されました。

しかし,研究の結果,どのような患者が間質性肺炎を起こしやすいかが分かり,肺線維症などをもとから合併している患者への投与は現在行われていないので,間質性肺炎を起こす患者は減少しています。(現在の間質性肺炎発症率は約5%)

イレッサは従来型の抗がん剤では効きにくい非小細胞肺がんの治療に使われ,がんの増殖に関係するチロシンキナーゼという酵素を阻害する分子標的薬です。多くのがんではこのチロシンキナーゼが活性化され,この酵素のはたらきによりがん細胞が増殖すると考えられています。

このイレッサは従来の抗がん剤に比べると効果の持続期間が長く,3年以上も効果を維持している患者もいます。
 
このイレッサは効果がすぐにあらわれることが特徴で,投与で症状が劇的に改善する患者もいます。

日米の合同研究チームの研究ではこのがん細胞の表面に存在するEGFRという上皮成長因子レセプターの遺伝子が変異をおこしている患者の方が効果があるという結果が出ており,現在では,患者の癌細胞のDNA検査を調べることで,事前に有効かどうか判別できるようになりました。。

このEGFR遺伝子変異あある場合,イレッサの有効率は80%程度ですが,変異がない場合は数%程度しかありません。

イレッサは従来の抗がん剤と比較して吐き気や脱毛などのつらい副作用は少なく,皮膚の発疹・掻痒症(そうようしょう),下痢,肝機能障害などが認められていますが,投与を休止することで2週間程度で軽くなります。

現在では転移が確認されたり,がんが大きくなって手術不能な場合や非小細胞肺がんに対して使用されています。

このイレッサでも長期間効果を維持することは難しく,なかには3年効果が持続する例もありますが,通常は3ヶ月~半年で効かなくなります。しかし投与を休止するとまた効果がでることもあります。


タルセバ(エルロチニブ) 
 
非小細胞肺がんの分子標的治療薬であり,作用メカニズムはイレッサと同様で,がんの増殖に関わるがん細胞の表面にあるEGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼを標的とし,そのはたらきを阻害します。

化学療法無効患者や化学療法後のがん悪化患者を対象にした臨床試験では,偽薬投与群の延命が平均4.7カ月だったのに対しタルセバ投与群は平均6.7か月延命したと報告され,効果はイレッサ以上ともいわれています。

EGFRに特定の遺伝子変異がある場合,より高い治療効果が期待できることが判明したため,遺伝子検査の結果が,タルセバの効果を判定するデータとなります。

しかし,遺伝子変異がない患者であっても,一般的な化学療法と遜色がない程度には延命効果があることが明らかになっています。

副作用として,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で特徴的に現れるものに皮疹などの皮膚障害があります。イレッサでも発現しますが,発現率はタルセバのほうが高く,ほとんどの患者に見られます。

また,間質性肺疾患も見られ,その副作用の発症率は国内の臨床試験では4.9%でした。 その他,下痢,口内炎などの副作用も見られます。

このタルセバは従来の抗がん剤よりほぼ倍の生存期間が報告されていますが,(50%全生存期間は22カ月)この薬剤でもイレッサ同様,肺がんを完治させることは困難です。

 

 

肺がん最新治療法

免疫細胞療法
 
免疫細胞療法は患者自身のリンパ球などの免疫細胞を体外で増加,活性化させ体内に戻すことでがん細胞に対する攻撃力を高めようとする治療方法であり,血液が通うところならどこでも効果があり,副作用もほとんどなく,手術ができない進行肺がんでも適用できます。
 
さらに,手術,放射線,抗がん剤と併用することも可能で,特に放射線治療や化学療法などは副作用を和らげる効果も期待できます。

現在免疫細胞療法は活性化させる免疫細胞の種類により,いくつかの方法があり,方法も改良され,奏効率も向上しています。詳しくは免疫細胞療法のページをごらん下さい。  
 
 
陽子線・重粒子線治療
 
陽子線・重粒子線治療は放射線治療の一つであり,粒子のなかでも水素の原子核を使う粒子線治療を陽子線治療と言い,炭素の原子核を使う治療を重粒子線治療と言います。

この粒子線治療の特徴は粒子が運動を停止する直前に最大のエネルギーを放出するという性質(ブラッグピーク)を利用し,がん病巣内部で粒子が最大のエネルギーを放出するようコントロールされてい
るため,従来の放射線治療に比べ,体への負担が少なく,副作用も少ないというメリットがあります。

現在,肺がん治療に関しては,効果が大きく,手術と同等の成績であるという報告がなされています。ただし,保険適用外で,1回の照射で約300万円ほど高額の費用がかかります。


陽子線治療実施機関 重粒子線治療実施機関
国立がん研究センター東病院
筑波大学陽子線医学利用研究センター
兵庫県立粒子線医療センター,
若狭湾エネルギー研究センター
静岡県立静岡がんセンター 独立行政法人放射線医学総合研究所
 

ラジオ波焼灼療法
 
このラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法は以前は肝臓がんに対して行われていましたが,2000年以降は肺がんに対しても行われるようになり,成果も見られるようになりました。

この治療法では手術が適応となる場合でも,呼吸機能低下により手術が困難な場合,患者が拒否している場合,あるいは他臓器から肺に転移している場合などが対象となり,ます。

ラジオ波は電磁波の一種で,電子レンジの原理と同様,ラジオ波照射により体の内部のイオンの振動が誘発され,熱を発生させることで,がん細胞を壊死させます。

治療は局所麻酔を行い,CTなどの画像を見ながら,直径2~3mm程度の電極針を病変に向けて皮膚から,差し込みます。

この治療では再発は少ないとされ,50%以上の症例で2年以上再発した例は見られないという良好な成績をおさめています。ただし,病変が2cm以上ですと再発率も高まります。

副作用は発熱や気胸,疼痛,血痰などが見られることがありますが,重いものではありません。

現在のところこの治療法は保険適用外で,1回の入院につき,30万円ほどかかります。
 
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