■ 膵臓がんの治療
膵臓がんの治療は手術,放射線,抗がん剤の三大がん治療がありますが,進行度が速い部位のため,発見されてから手術で切除可能なケースは10%~40%程度です。放射線に対する感受性も低く,また膵臓がんの腫瘍は血流が少ないため,抗がん剤もあまり効果的ではないとされています。
●手術
早期の段階では最も治療効果が期待できる治療法です。
膵臓がんは,かつては血管浸潤があっても拡大手術が行われていました。 しかし,欧米や日本での臨床比較試験の結果,標準的な手術と拡大手術では拡大手術は合併症が増加し,生存率には大きな差がないという結論に達しました。
したがって,現在では多くの施設で拡大手術は行われていません。しかし,一部の施設では拡大手術を行っているところもあります。
◆膵頭十二指腸切除
膵頭部のがんでは,膵臓頭部,付近の胃のや十二指腸の一部,総胆管,胆嚢などを一緒に切除するのが一般的な方法です。最近では胃の出口にあたる幽門輪を残し,術後のQOLの低下を防ぐ方法も行われています。(全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術)
また,膵頭部付近にできるがんは黄疸をともなうことが多いのですが,近年皮膚からチューブを挿入して胆汁を外に出したり,人工胆道が開発されたりして,開腹せずに黄疸の症状を軽くする治療が可能となっています。
◆膵体尾部切除
膵体・膵尾部のがんは膵頭部を残して切除する方法が一般的です。膵頭部側を残してがんができている膵臓と脾臓を切除します。
また膵臓すべてを取り出す,全摘手術はインスリンの分泌がなくなり糖尿病になったり,外分泌系の消化酵素が分泌されなくなるため,最近ではあまり行われていません。
◆膵臓全摘出
膵臓のすべてを切除する手術で,膵頭十二指腸切除と膵体尾部切除を一緒に行います。この手術を行った場合には膵液を分泌する機能やインスリンを分泌する機能が失われてしまうため,インスリンを補う必要があり,消化不良にもなりやすくなります。
◆腹腔鏡下膵切除術
最近では膵臓がんに対しても腹腔鏡切除を行う施設もみられます。腹腔鏡下膵切除術の適応となるのは、膵臓にできた良性か低悪性度の腫瘍です。
膵臓は腹部の最も深いところ(後腹膜腔)に位置していることから,病理検査のために組織を採取することが難しく,画像診断だけでは良性腫瘍か,悪性腫瘍かを正確に診断することも難しいことがありこの腹腔鏡下膵切除術を実施することによって確実な組織診断が得られます。
この手術の最大のメリットは患者への負担が少ないということで,開腹手術では2週間程度の入院期間を要するのに対し、腹腔鏡下膵切除術では1週間から10日間程度ですみます。
●放射線治療
膵臓がんは放射線に対する感受性が低く,膵臓の周りを胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,腎臓,脊髄など多くの臓器が囲んでいるため,膵臓への照射量も少なくせざるをえません。
したがって,術中照射が効果的とされ,放射性物質をチューブに入れ,がんの中に埋め込む方法もあり,正常細胞へのダメージを少なくすることができます。
現在,放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院で行っている重粒子線治療が膵臓がんの治療に成果をあげ,注目されています。この施設は世界で唯一重粒子線による膵臓がんの手術をおこなっているところです。
この重粒子線治療の特徴は粒子が運動を停止する直前に最大のエネルギーを放出するという性質(ブラッグピーク)を利用し,がん病巣内部で粒子が最大のエネルギーを放出するようコントロールされているため,複数の臓器に囲まれている膵臓がんには最も適した治療法と考えられます。
ただし,この治療を受けるには以下の条件をクリアする必要があります。
(1)肝臓や腹膜などに転移がない。
(2)過去に膵臓がんの治療を受けていない。
(3)介助なく身の回りのことができる。
(4)80歳以下。
●抗がん剤治療
膵臓がんは抗がん剤は効きにくいとされ,複数の抗ガン剤を組み合わせることも多いようです。抗がん剤としてよく用いられるものにフルオロウラシル(5-FU)があり,がんの切除後に放射線と併用することで再発防止に効果があるとされます。
最近細胞内でで代謝され,三リン酸化合物となり,DNAの合成を阻害する作用を持つジェムザール(塩酸ゲムシタビン)という抗がん剤が開発され,延命効果や疼痛緩和効果などが認められています。
手術ができない3期と4期の膵臓がんに対する治療法は,原則として抗がん剤治療か化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)になりますが,ただし,化学放射線療法は3期に対してのみ行われます。
このジェムザールは外来で投与が可能で,毒性が少ないため,患者の負担も少なく,ジェムザール単独の治療でも化学放射線治療と同等の効果が期待されています。
現在では,膵臓がんの抗がん剤治療においてはジェムザールだけの治療を行っている施設が増えています。
また,国立病院機構大阪医療センターではジェムザールを使う標準的治療の他に、ジェムザールとTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)の単剤同士の比較や、併用療法の効果を調べる臨床試験を行っています。この臨床試験は全国の施設が参加する大規模なものです。
TS-1は、ジェムザールが登場する以前に膵がんで使われていた5-FU(一般名フルオロウラシル)の成分をもとに、日本で開発された薬です。
現在,これまでの臨床試験の結果,ジェムザール単独よりも,TS-1との併用療法のほうが効果の大きいことが予想され,効果が期待されています。
●分子標的治療薬
現在,がん細胞の特異構造を標的としてはたらき,正常細胞への影響はないとする分子標的治療薬の研究が進んでいます。
エルロチニブ(タルセバ)は2007年に承認された非小細胞肺がんの治療薬で作用メカニズムはイレッサと同様で,がんの増殖に関わるがん細胞の表面にあるEGFR(上皮増殖因子受容体)チロシンキナーゼを標的とし,そのはたらきを阻害します。
副作用として,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で特徴的に現れるものに皮疹などの皮膚障害があります。イレッサでも発現しますが,発現率はタルセバのほうが高く,ほとんどの患者に見られます。
また,イレッサ同様,間質性肺疾患も見られ,その副作用の発症率は国内の臨床試験では4.9%でした。 その他,下痢,口内炎などの副作用も見られます。
タルセバは膵臓がんに対する臨床試験の結果,効果が得られたとして,中外製薬が2009年膵臓がんに対する効能・効果追加の承認申請を厚生労働省に行いましたが,臨床試験中のため保険の適用が受けられません。
中外製薬によるタルセバの説明会において,国内フェーズ2試験で重大な副作用の間質性肺炎の発現率が8.5%(106例中9例)に上っており,かなり厳重な体制でやってく必要があると発表されています。
●免疫細胞療法
手術もできない場合,免疫細胞療法も一つの選択肢ですが,そのなかでも活性化自己リンパ球療法は高度先進医療として8カ所の大学病院が指定を受け,実施しています。ここでは免疫療法は特別治療費として全額負担となりますが,診察や検査,入院費などは保険の適用を受けられます。
免疫細胞療法の最大のメリットは副作用などがほとんど見られないということで,手術,放射線治療,抗がん剤治療と併用することもできます。
また新しい免疫細胞療法の一つである樹状細胞療法に限れば東京女子医大病院,東北大学病院、福島県立医大病院,京都府立医科大病院などで臨床試験として実施されています。免疫細胞療法の実施病院に関してはがん治療の病院のページをご覧下さい。
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